12月7日に岡山城で開催する「The “OSHIRO” Collection」のスピンオフ企画。世界のラグジュアリーファッションを下支えしている日本の生地工場を、『GQ』が探訪&徹底取材した! 第4回目の今回は、岡山県・児島でデニムを加工する「癒to Ri 18」を訪ねる。
岡山・児島へ! 世界最高峰のデニム加工工場【日本ファクトリー探訪 第4回】
▲デニム加工歴14年、田中裕也さんの手。デニムの膝裏の色落ち、いわゆる“ハチノス”の加工を施している。150度のスチームで糊をやわらかくして、手作業でハチノスをつくる。何十本、何百本ものデニムに同じハチノスの模様を描くのには、熟練の技術が要求される。機械に頼らず、すべて手作業で行うのが「癒to Ri 18」の特徴だ。
児島がデニムの町になった理由
JR岡山駅から在来線で瀬戸内海方面に向かって約20分。児島は、海沿いの漁師町だ。ナチュラルビューティハンターとして世界の美容を追いかけるシナダユイさんとともに、この地で2004年よりデニム加工を行う「癒to Ri 18(ゆとり18)」を訪ねた。
▲岡山県倉敷市児島の漁港から、瀬戸大橋を望む。漁業と綿花栽培で栄えた児島は、やがて学生服製造とデニムの町として知られるようになる。
ジーンズストリートで知られる児島は、デニム産業が盛んになる前からコットンを用いた衣服の製造が盛んだった。雨が少ないことと土壌に塩分が含まれることから稲作には適さない土地柄で、塩に強い綿花の栽培が行われたことがその理由だという。
第2次大戦前は足袋(ゲートル)の製造で栄え、第2次大戦前後から学生服の製造が始まった。現在では約30もの学生服メーカーが児島に集まり、全国シェアの約7割を占めている。こうした下地があって、デニム産業が発展したのだ。
▲サンプルルームにずらりと並んだ加工見本。写真の2本の違い、おわかりになるだろうか? この微差を、各ブランドは求めてくるので、癒to Ri 18はそれに対応している。すごい!
21歳で癒to Ri 18を立ち上げた代表取締役の畝尾賢一(うねおけんいち)氏は、「縫製や洗いなど、デニムにかかわる企業や工場が集まっているので、児島は仕事がしやすい」と語る。
「もうひとつ、もともと漁師町だったからかもしれませんが、みんなで助け合うという気質があります。僕たちみたいな若輩者がいきなりデニム加工を始められたのも、そうした雰囲気のおかげですね」
あのコレクションで見たデニムは、ここで生まれた!
癒to Ri 18のサンプルルームには、自社で加工したデニムはもちろん、畝尾社長をはじめとするスタッフが買い集めてきた古着が所狭しと並んでいる。ブランドの担当者なりデザイナーたちがこのサンプルを見ながら、「色はこのデニムのこの部分、汚れはあちらのデニム、ダメージはあれ」というように、これからつくるデニムの方向性を決めていくのだ。
▲リジッドのデニムが搬入され、加工はヒゲをつくる工程からスタートする。
そして、癒to Ri 18に加工を依頼するブランドやデザイナーの名前を聞いて、口がポカンと開いてしまった。だれもが知っている超メジャーどころばかりで、しかもその数は片手では足りない。『GQ』ファッション・ディレクターの森口德昭も、「この加工デニム、こないだのパリコレのランウェイで見ましたよ」と興奮気味だ。
契約の関係でその名前をお伝えできないのが残念であるけれど、これまでに取材した3社も含めて、日本の匠の技が世界のラグジュアリーファッションを支えていることを肌で感じる。
実際にデニムを加工してみよう
では、世界のデニムの最先端といっても過言ではない癒to Ri 18では、どのように加工を行っているのか。畝尾社長は、デニム加工についてこう語る。
「工場によってやり方が大きく違うかというと、そんなことはありません。どこもやっていることはだいたい同じで、ただし、工場によって仕上がりにクセがあったり、得意な加工があったりはします」
加工を施すデニムは、国内の縫製工場から搬入されたり、ブランドから直接送られてきたりと、さまざまな経路で癒to Ri 18にやって来る。畝尾社長によれば、癒to Ri 18はヴィンテージ的な味のある加工が得意で、それが取引先から評価されているとのことだった。
今回はこれまでと趣向を変えて、シナダユイさんがデニムの加工工程にチャレンジ。“世界の癒to Ri”の匠の技を、身をもって体験した。
ハチノス作りはプロの出番
デニムの膝裏の色落ち模様をハチノスと呼ぶ。文字通りハニカム状の模様になっていることからこう呼ばれるが、ハチノスが“バキバキ”なのか、それともボヤッとしているかでデニムの評価は大きくわかれる。
したがってハチノスをつくる前工程(シワ工程とも呼ばれる)は、デニム加工のハイライト。150℃の蒸気でリジッドデニムの糊をふやかすなど高度な技術が必要なので、ここはプロの職人、デニム加工歴14年の田中裕也さんにお願いした。
ここがデニムの司令塔だった
シナダユイさんが生のデニムを加工していく過程を見ながらわかったのは、癒to Ri 18はすべての工程を手作業で行っているということだった。畝尾社長は、手作業にこだわる理由をこう語った。
「機械化も必須と思っていますし技術も年々すごくなっていますが、やはり最終的に手作業が必要なので表現の幅が広くするためには結局、手作業が必要ですからね」
世界で認められるデニムは、児島の職人たちの手から生まれているのだ。
畝尾社長の話をうかがうと、癒to Ri 18が単なる加工場としてだけではなく、デニムのコーディネイターの役割を果たしていることがわかる。たとえば、あるブランドがデニムをつくろうとする。そのとき、まず最初に癒to Ri 18が相談を受け、求められる仕上がり具合から逆算して生地や縫製、洗いの工場を紹介するというのだ。
癒to Ri 18は優秀な加工場であると同時に、デニムの司令塔でもあるのだ。
COLUMN
本日のエコポイント「ファーストサンプルはモニターで!」
今回の取材でシナダユイさんが感心したのは、営業部屋と呼ばれる一室で見たサンプルづくりだったという。
「デザインシステムというスーツをつくるときに使うソフトを使って、バーチャルでサンプルを確認できるんです。デニムの型、ヒゲやダメージ、色落ちのデータがすべて取り込まれているので、それらを組み合わせるとすぐにサンプルができます。たとえば膝の穴は要らないといったことが、ワンクリックで加工できます。この仕組みを導入する前は、実際にサンプルをつくって、ブランドに送ってチェックしていたとのことですが、これならデータで送ってすぐに確認できます。無駄なデニムをつくらなくて済むこと、移送の費用や手間がかからないことなどが効率的でエコだと思いました。このシステムを導入しているデニム加工場は、ほかに思い当たらないとのことでした」
シナダ ユイ / ナチュラルビューティーハンター(今回はファクトリーハンター)
「実際に工程の一部を体験させていただいて、いかに高度な技でデニムを加工しているのかを知りました。ハイブランドのデニムがいくつもあって、日本の職人の匠が世界のデニムを牽引していると思うと、うれしくなりますね。現場からは以上です」
癒to Ri 18
岡山県倉敷市児島下の町8丁目8番4号
Tel.086-470-0618