「ぼく史上、最高のヴィンテージデニム5本を見せます」前編──ベルベルジン・ディレクター、藤原裕「ヴィンテージ百景」

藤原裕さんがいま、本当に好きなジーンズをおしえてくれた。
ベルベルジン 藤原裕

【はじめに】

ヴィンテージデニムから時計、ゴローズまで。原宿にある古着屋「ベルベルジン」のディレクター、藤原裕の周りには古くて新しいモノがころがっている。いまかれが注目しているヴィンテージウェアをはじめ、藤原裕の周囲で熱い“今”を発信する!

GQ JAPAN WEBにて連載を担当させていただくことになりました藤原裕です。1996年に高知県から上京して印刷会社で働いていたのですが、高校時代から大好きだった”ヴィンテージ愛”が爆発し、縁あって1999年より原宿の古着屋『ベルベルジン』に入社しました。そこから現在にいたりますが、ヴィンテージに対する愛情は変わりません。

この連載ではヴィンテージアイテムを中心に、時計やスニーカー、ゴローズなど、ヴィンテージ・クロージングと相性のいい、つまりぼくが大好きなアイテムを紹介します。第1回目は、ヴィンテージデニムです。これまで何万本というデニムを見てきたぼくが、絶対に手放したくない”個人的超お宝デニム”ベスト5を紹介いたします。年代や市場での希少価値は一切度外視した、“私情”のみで選んだデニムです。デニムに対する愛情の注ぎ方は人それぞれ。ぼくなりの”デニム愛”を知ることで、1人でも多くの方にヴィンテージデニムに興味を持つきっかけになってくれたら嬉しいです。

第5位 1950〜60年代「オシュコシュ」

後ろの革パッチには、デニムのモデル名と思われる”BRONKS”を中心に、上下に小さく”OSHKOSH Bgosh”のロゴがうっすらと確認できる。ベルトを通してはいていたら破損しがちなパーツだが、こちらはまだまだ現役。

50〜60年代製と思われる〈オシュコシュ〉5ポケットジーンズです。買うまでに同じデニムを数回見たことがあったのですが、なかなかマイ・サイズ(自分にぴったりなサイズ)に出会えなくて。でもある時、たまたまワンウォッシュの状態で見つかり購入しました。人それぞれ色々なデニムの楽しみ方がありますが、ぼくは購入したデニムはデッドストックでも必ずはいて楽しむというのがポリシーです。じっさい、これもかなりはき込みました。おかげで理想的な色落ちに仕上がりました。あとこのデニムはシルエットの美しさもポイントです。股上が深めのテーパードシルエットはモダンで、はくとその魅力をより実感できます。最近、ダイエットに成功したのでW34だと少しゆるく感じますが、その分スマートなシルエットが際立つんです。

60年代前半といえば〈リーバイス〉ならXXの紙パッチ・モデルがリリースされていた頃。サイズや色落ちが近しい状態であれば30〜40万円が相場になる。〈オシュコッシュ〉の場合は知名度が低いため、5〜6万円とお買い得だ。ただし流通量は少ない。

股上が適度に深く、全体的に細身のシルエットは、リーバイス 505のようにスマートなスリムストレート。ヒップポケットの位置が高めに設定されているので、シルエットをより美しく見せるのだ。

購入時、両ヒップポケットにはリーバイスのアーキュエットステッチのように、V字のステッチが入っていたが、好みではなかったので取ってしまった。ポケットに財布をよく入れており、色落ちの度合いからいかにはき込んだかがわかる。

フロントジップにはグリッパー社のジップを採用している。そのことから、こちらのデニムは、50年代後半〜60年代前半のものと推測される。ヴィンテージウェアはジップが破損している場合もあるので、購入時のチェックポイントでもある。

リーバイスなどと比較するとサイドのミミ(生地端=セルビッチ)が太く、しかも左右で幅も違う。アバウトな生産の様子が妄想できるユニークなディテールだ。本人も、デザインとしては気に入っていたので、一時期はあえて深めにロールアップしてはいていたことも。

通常のデニムはダブルステッチが主流だ。オシュコシュはワークブランドのため、その名残からか、トリプルステッチで頑丈に縫製されている。さらにリーバイスのようにカンヌキ留めでなく、V字のステッチで補強しているのもポイント。

第4位 リー 101 Z サイド黒タグ

通称”サイド黒”(ウエストバンド内側の横部分に、黒のネームタグがついているモデル)と呼ばれるこちらは、1950年代後半~60年代中頃まで生産されたもの。リーを代表する人気モデルのひとつだ。

実はリーも大好きなんです。リーバイスと同様、マイ・サイズの濃いデニムがなかなか見つからないのですが、ある日たまたま原宿にある系列店の「フェイクα」に濃い1本が入荷したんです。50年代当時の新品のデニム生地と似た黒に近い、いわゆる”真っ紺”で、しかもマイサイズのW33×L30だったので購入しました。このデニムで初めて自分で洗濯後のノリ付けをし、その影響が色落ちにも表れています。このデニムの魅力はシルエットです。例えばリーバイスは、501であればシルエットを見れば501と認識できますが、リーの101場合、デッドストックのフラッシャー(ヒップポケットに付けられる紙ラベル)を見ないとシルエットがわかりにくいんです。ほとんどが「REGULAR」ですが、「SLIM」というものも存在するらしく、「フェイクα」に保管されたデッドストックを全部チェックして他の資料など色々と調べた結果、これがSLIM仕様であることがわかったんです。自分のカラダにここまでフィットしたデニムは、後にも先にもこれだけです。

サイド黒ラグのリーといえば、当時ジェームス・ディーンがはいていたことでも有名。すっきりした印象のスリムストレートに加え、5本のベルトループと、ジップ仕様が特徴。藤原さんにとっても憧れの1本だったという。

インディゴが濃く残った状態から洗濯時にのり付けをし、週3の頻度で3年間はき続けた。リーバイスとはまた違った、やや柔らかい表情の色落ちがお気に入りなのだそう。

糸の撚り方向が、リーバイスが右綾(みぎあや)であるのに対し、リーは左綾(ひだりあや)で、デニムの生地が少し柔らかく、激しく色落ちしないと言われている。だがのり付けしたおかげか、色落ちのコントラストがはっきりとでた。

脚を曲げるとジーンズにシワが寄る。それで生まれた膝裏部分の色落ちは、網目のような見た目から通称”ハチノス”と呼ばれる、ヴィンテージデニム好きにはたまらないディテール。うっすらと見られる縦落ちとのコンビも秀逸。

同じリー101ライダース「サイド黒」タグでも、レジスターマークの有無など、製造年代によってデザインが微妙に異なる。ちなみに、こちらのデニムよりも古いタイプのモデルになると、タグの付いている位置が中央であることがから“センター黒”と呼ばれる。

第3位 リーバイス 501XX 革パッチ 片面タブ

糊付けは一切せず、購入してすぐに1度洗い、そのままはき込んだもの。週3くらいのペースではき続け、その間トラブルも多々あったが、現在は自身でも納得のこの表情に。洗濯の際、取れてしまった革パッチは自宅で飾っているそう。

501XXをデッドストックでおろすのが夢だったので、12年前に思い切って購入し、じっさいにはきました。洗ってのりを落とし、しばらくはいてヒゲもできていい感じに色落ちしていきました。大事に育てていたのですが、ある日後輩と飲みに行った時に、前身頃股上周辺にわたって酒をこぼされました。しかも、レッドアイ(笑)。すりつぶしたトマトとデニムの相性は最悪です……。当時はまだ「ビヨンデックス」(デニムに特化した洗剤)もなく、途方に暮れました。トマトは水では落ちないと思い、お湯に浸して花王のおしゃれ着用洗剤、エマールを使いました。するとタライのお湯がどんどんインディゴ色に染まってきて、乾いた時にはだいぶ色褪せしてしまい……。それからはもう吹っ切れました(笑)。サイズがやや大きかったので乾燥機にかけて気兼ねなくはき、12年かけて今の状態になりました。デッドで下ろした経緯や過去の笑い話は会話のネタになるので、XXを探しに来られるお客さまを接客する時などにはいています。ある意味、僕にとっては勝負デニムですね。色落ちもそうですが、デッドから初めてはいたXXということで、思い出の詰まった大事な1本です。

12年前にデッドストックの状態から下ろしたという、1940年代のレザーパッチ付きで片面タブのXX。今買うとなると300万円はくだらないという超お宝デニムだ。”はいて楽しむ派”の藤原さんが手塩をかけ、愛情たっぷりの色落ちが完成した。

財布の跡がつくほどはき込んでいる様子がわかる。XXの特徴である片面タブはしっかりと残存。リーバイスの顔と言っても過言ではないアーキュエット部分は、イエローステッチだ。

年代ごとにデザインが微妙に異なるトップボタン。このモデルは、フラットですっきりしたデザインが特徴。ちなみにフライボタンではなく、ジップバージョンが登場するのは1950年代に入ってから。

腿部分のヒゲは、藤原さんの大好きな色落ちの特徴だ。ちなみに色落ちの好みは濃淡のコントラストが強めのもの。洗濯や乾燥をなんども繰り返すと均一な色落ちになりがちだが、デッドストックの状態からはきこんだだけあり、しっかりと濃淡がついた様子がわかる。

第2位、第1位は3月24日に公開!(つづく)

PROFILE

藤原裕

ベルベルジン・ディレクター

原宿のヴィンテージショップ『ベルベルジン』顔役。ヴィンテージデニムマイスターとしても認知されている一方、多くのブランドでデニムをプロデュースするなど、現在のデニム人気を担っている。

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文・オオサワ系 写真・湯浅亨


第3位 リーバイス 501XX 革パッチ 片面タブ
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